2014年1月25日土曜日

第一回勉強会レポート

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1. 挨拶 (平野さん)
進行役の平野です。本日のゲストはアジア経済研究所の佐藤さん。ミシガン大学で開催されたBOPサミットが開催された。日本からの出席者は6名。(去年は0名)。200名余のサミットで日本からの参加者が6名のみ、そしてビジネスセクターからの参加がゼロだったのは少ないと感じている。その内容を共有し、内容をふまえた上でフリーに議論できればと思っている。特に日本企業が新興国に進出していくときにどうやって差別化していくのか。特にアフリカは中国、韓国の進出が進んでいて日本が遅れている。今、日本政府はあせっていて税金をたくさん投入しているが、どこに資金を集中すべきか、またNGO, 民間、企業がどう連携すれば議論できればと思う。

2. 佐藤さんプレゼン
社会開発全般を研究対象としている。7-8年前にフェアトレードの可能性に関心を持ち、フェアトレード研究会を立ち上げた。その後、BOPビジネスを始めるぞ、と経産省が立ち上げたのが2009年。JICAはすぐに乗り気になったのだが、JETROはもたもたしていた。アジ研はJETROの一部だが、BOPの研究を任されて今に至っている。

BOPサミット - 畳上の水練 -
・Ted LondonとStwart Heartの共演
・ 事前に参加者に議論のテーマなどが共有され、仕込みは上々
・ ワークショップはビジネススクール形式
・ ただ、語られている言葉は入ってこない。現場で頑張っている人がおらず、現実離れしていた
・ キーワードは「エコシステムの構築」

日本関係者
笹川財団、味の素、JICA、水フォーラム、プロアクトインターナショナル、アジ研。ほかに日本代表ではないが、日本人としてIFCの加藤さん、マッキンゼーの堀井さんが来ていた


第一目


  • Ted Londonのプレゼン
    • Seeking transformational change
    • BOP: the opportunity and the challenge
    • Business development + poverty alleviation
    • ビジネスの新たな機会と開発の新たなアプローチの相互接近
    • ビジネスのチャレンジ=顧客の発見、新たな調達先の発掘、成
    • 開発のチャレンジ=膨大な数の顧客へのサービス、市場機会の
  • このBOPの概念ができたときから、思考が進んでいない。そうだよねえ、といった内容
  • BOP Venture
    • 財政的に自己持続的かつスケーラブルなベンチャーで、BOPのwellbeingを相対として大きく改善させるもの
    • これも目新しくはない。スケーラブル、という点は課題だと思うが、言われなくてもわかっていることでもある
  • BOP at a cross road?
    • BOPエンタープライズは可能性がある(貧困削減に寄与できる。利益を挙げられる。希望拡大できる、など)が、どれだけ進んでいるのか?もっとできるのではないか?という問いかけをした
  • Next generation of BOP: a new starting point
    • 古いフレームワーク: 本当に「BOPにfortuneはあるのか?」という問いかけだった(=fortune finding)
    • 新しいフレームワークは、作り出すこと(=fortune creating)
    • 機会はあるのだから、創り出す、共創が鍵
    • ただ、このあたりは参加型開発の考え方と同じ
  • BOPビジネスはこのような時に盛り上がる
    • 経営者のコミットメントがある
    • 現地の人と共同する
    • 援助ドナーのお金をうまく使う
    • これもその通りだと思うが、日本の経産省の勉強会と同じレベルで、それだけ?という印象
  • BOP事業発展の原則
    • パイロット→サステイン→スケールの循環
    • サイクルの真ん中にcreating mutual value
    • 当初の問いかけ=BOPベンチャーはBOPにとっていいのか悪いのか?
    • より生産的な問いかけ=どうすればBOPベンチャーはBOPにとって良い結果をもたらすか?
  • 3x3のマトリックス
    • 経済複利、ケイパビリティー複利、関係性複利
    • 売り手、買い手、コミュニティー
    • この3軸、3軸のマトリックス
  • 援助金100億ドル
    • これをうまく使おう!
    • パートナー間のエコシステムの創造が必要(独立から相互依存へ)
    • 従来のようなパートナーの形(企業+NGO+補助金)ではない、新しいエコシステムの創造が必要
  • まとめ
    • from execution to innovation 
    • from monitoring to enhancing (social impact)
    • from independence to interdependence (partnership)
    • アフリカのことわざ= If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together
2日目

  • 保険セクター、社会インパクトの計測、農業セクター、などグループセッションがあった
  • 抽象的で全く面白くなかった

 3日目

  • 資金提供者の視点
    • JICAの説明=質疑応答をすればするほど、日本企業のために、ということが浮き彫りになる
    • それがすごく浮いちゃう空気が漂っている場だった。これがJICAだけが例外なのか、そういうことは行儀が悪いから言わないのか、企業や国の自己利益の話は一切出てこない会議だった。なんなんだろう?

つぶやき

  • 現場はどこに?
  • 社会インパクトの計測はIRISというスタンダードがメジャーになってきているが、この会では、IRIS一本でいいのではないか、という議論がされていた。一つの指標だとそれぞれの開発現場の異なる事情は反映できない。その欠点に対する議論は全くなく、違和感を覚えた
  • ネットワーキングの意義はあるが、すでにできあがっているネットワークの上書き(日本人は違う)ミシガンの代わりに大阪ではできないのか?


3. 質疑応答・自由討議
質問(牧田さん): 農業セクターなどで発表した人たちはどういうバックグラウンドの人たちか?どういう話をしたのか?

佐藤さん: 農業分野でビジネスをしている大企業のCSR担当、NGOの人が多かった。具体的な事例ではなく、「こういう枠組みでパートナーシップを組もうと思っている(具体的な相手はない)」というレベル間で、抽象的な話だった

質問(黒田さん): NGOの役割の分科会でこれまでと違う意見が出ていたら教えてもらえないか?

佐藤さん: 参加者が微妙だった(元NGOで今ビジネス、とか)。第一線じゃない人が多かった。一番面白かったのはGlobal Alliance (cooking stove)の話。Cooking stoveのプレーヤーの情報共有のプラットフォームを使っている事例を紹介してくれた。けっこう回っているようで非常に面白い試みだと思う

質問(平野さん): プラットフォームの話がけっこう出たと思うが、もっと具体的に?

佐藤さん:  BOPサミットがすでにプラットフォーム。これを活用しましょう、という話。日本でもJETROがBOPプラットフォームを作っている。そこにいけばいいことがあるよ、と言っているが、プラットフォームがあってアクターがいること自体はなにも生まない。具体的なベンチャーがあって、それをコアにプラットフォームが立ち上がるのが本来の姿。具体的な事例を中心に集まってアライアンスを作る、としないと意味がないのでは?プラットフォームを作ってからそこに意味あるアライアンスが生まれるとは思えない。

平野さん:  全体として、BOPビジネスという学問の場だったような印象を受けた。リアルビジネスの人が少ないというのがあるのかもしれない。企業からすれば、定義はある意味どうでも良く、現地コミュニティーの発展を一緒に考えるのも当たり前。これはビジネススクール的なネタの更新にも見えたが、、、?

佐藤さん:  開発現場では当たり前のことでも、ビジネス界は当たり前ではないので、言い続けるのは大事だと思う。だけど、BOP中級者になってきた人に対して、どういうメッセージ発信ができるのか?中級者なのだからここから先はビジネスだけをやればいい、と思えば、常にサミットは初級者向けに発信をすればいいと思うが、中級者向けに彼らを巻き込んでスケールアップする仕組みは必要ではないか?その時のメッセージは、開発側が、ビジネスに追いついていないのではないかと思う。そのシステムを作るのが新しい課題ではないか

質問:  社会的インパクトを強化する、というのがテーマだったと思うが、社会的インパクトに加えて、ビジネスも強化する、という論点はあったのか?

佐藤さん:  ビジネスでどうやって儲けるか、という議論は一切なかった。もしかしたら、すでに利益が上がっている会社しか来てなかったのかもしれないが。。。

平野さん:  エコシステムは結局、ステークホルダーエンゲージメントのことなんじゃないかと思う。これはビジネスでは当たり前で、今更言われても、という印象

佐藤さん:  ただ、一つのビジネスの直接的な責任範囲内には含まれないステークホルダーがいる。そういう人も巻き込むのがエコシステムで言いたいことではないかと思う

平野さん:  途上国の開発は、一つの会社では解決できない課題が混在している(水、衛生、などなど)。そういう意味では、複数の企業があわさって、一緒にイノベートしよう、ということならわかる。

佐藤さん:  そういうことも含んでいると思う。

佐藤さん:  農業セクターの出席者。Technoserve, one-acre fund, McKinseyの人(途上国の農水省へのコンサル)、の3人が出席した。NGOのネットワークのセッションは、Oxfam USA, sustainable food laboratory, CARE USA, Dalberg の人、Global alliance for cooking stove, 元World Visionの人、が出席。

質問(白山さん):  London教授が言うimpact assessmentは、具体的にどういう手法なのか?

佐藤さん:  とても正直に言えば、各企業で測るやり方を考えろよ、とLondonは思っているのではないか。ただ、それはファイナンスの業界では死活問題だ。Social imvestmentの会議(@シンガポール)のほうがより具体的に議論されていたと思う。今回はそこにフォーカスがなかった。

平野さん:  経産省のBOPの議論と変わらない、という話があったが、グローバルに見ても、日本が世界をリードできるチャンスだということか?

佐藤さん:  そうだ。日本が決して遅れている訳ではない。

平野さん:  勉強しにいく会と位置づけずに、日本発の事例を発表する場と思えば良いのかもしれない。ただ、日本でも良いフレームワークがない状態だ。そういう意味ではプラットフォームは意味があるかもしれないが、各企業にとっては自分が途上国で足で稼いで得た情報を開示するメリットがない。護送船団方式になっても仕方がない。企業の意見を聞きたい

xxxさん(トイレ事業):  ビジネスと社会インパクトが直結したビジネスである。もちろん始めは赤字を覚悟しているが、最終的には利益をあげるつもりで、事業としてやっている。今の心配事は競合との接し方。競合も参入した方が社会インパクトが大きいかもしれないが、我々は自分が勝ちたい。

廃棄物事業の白井さん:  今度ケニアに行く。ビジネス側としては、BOPではなく、top of the marketから入って行くのもありだと思っている。今の課題は駐在員の生活補償と現地スタッフの教育、コスト削減(=現地化)。いままでのビジネスは人件費が安い貧しい国と、富める国のギャップを利用して勝負してきた。これからはBOPビジネスを相手にするので、賃金の差(日本人のほうが給与が高い)を考慮してビジネスするのが難しい。目標として儲けようとすると難しいので、違う目標を持たないと難しい。若い人の動機付けになれば、と思っている。商売の関心事はほとんどがコスト削減。そういう話ばかりだと若いやつが馬鹿になるので、若者育成も兼ねてケニアをやりたいと思っている。若者の「東京にいたらやるべきことがない。ケニアではやるべきことだらけだ。」という言葉があって、絶対ケニアでやろう、と思った。BOPの抽象的な言葉は現場ではあえて使わないようにしている。サミットのまとめを聞いて、現場とだいぶ離れているんだ、と思った。

平野さん: 日本で何十年も前からアフリカでがんばっている企業がたくさんいる。ヤクルトや味の素もその一例では?味の素(中尾さん): サミットの感想として、うちの会社の人もCSR関係者が傷をなめあっている、という印象だった。儲かるか、といったらやっぱり儲からないのが現状。儲かるなら社会性があろうがなかろうがやっている。社会性があるから儲からないのも実情。そこでみんな苦労している。sustainable food laboratoryでは、すでに面白いコラボの事例が生まれてきている。企業同士のコラボは難しい。企業とNGO、などのパートナーシップ(縦のパートナーシップ)はけっこう生まれてきている。そういう展開を期待したい

シャプラ(フェアトレード活動をずっとやってきた):  企業との連携を探っている。今日の議論を聞いていて、気づいた。ドラッガーの4つの質問: 本業はなにか?、顧客は誰か?、顧客にとっての価値はなんだ?、本業はどうあるべきか? —この4つの答えが社会的な変化によって大きく変わってきた。つまり、ビジネス側の本業の本質として、開発側の課題に近づいているのではないか?そこにアカデミックな新たな研究対象が生まれつつあるのではないか?(それがBOPサミットで現れたのでは?)また、開発側としては、助成金にばかり頼っていてはいけないから、自走したいと思っている。(BOPビジネスとは逆。)NGO側はリソースが不足している。打てる球があまりない。あえて関わり方を言うと、人材育成のところではできることがあるのでは、と思う。ただそれもNGOだけができることではないので、将来は役割を終えていくのかもしれない。それは社会的に健全だと思うが。これから自分はどうしようかな、と思ったりする(笑)。

OXFAM Japanのおがさん:  企業との連携は最近形が変わってきた。企業の普通の活動から見えてこない負の側面に対してNGOは目がいきがち。それに対して声を上げるのが役割かと思っている。ただ、それをできていないから、と声を上げてもマスコミは取り上げてくれないので、成績表をつける形で、トップブランドを名指しで一覧表にして公開した。そこに名前があがった10社は、すべてメディアを通じて対応をしてきた。それだけ早く反応が出てくるのは、活動としてうまくいったということ。そういう風にオープンなところに議論を持ち出すのも関わり方としてあるのではないかと思う。佐藤さん:  今の話がエコシステムの話だと思う。味の素からお金が儲からない、という話が出ていたが、ソーシャルなリスクが高ければ高いほど、そこにお金はついてくる。消費者の目が厳しくなればなるほど、企業が社会的なことをやることの価値は上がってくる。例えば、調達のプラクティス改善の投資が増える。そういう意味で、大きなエコシステムを生み出す上で、NGOの果たす役割(=消費者の途上国に対する批判的な目を醸成する)は大きい。

先ほど、企業の「縦のバリユーチェーン」の話をしたが、企業(例えばコカコーラ)が直接関わる、流通、生産、調達などの関係者は自分たちですでに関わっている。ODAが関わる場合は、このチェーンに複数の企業を載せることを考える。最終的にどの企業が残ってもかまわない。社会的なインパクトが生まれればいいので、一社が総取りしたっていい。

リサイクル教育センターつぐみさん:  自動車リサイクル業をやっている。ニーズはあるけどマーケットがない。だから、マーケットを作ろうと思っている。自動車は世界中で10億台を超えている。半分が先進国、半分が途上国にある。途上国にある4.8億台の車だけで、1300万台くらいスクラップされる。先進国では2600万台くらい。新しく作られる車が8000万台くらいなので、4000万台ずつ増えている。日本の車はほぼ完璧にリサイクルされている。途上国はほとんど行われてない。そこの教育を、いろいろな国を回ってやっている。ナイジェリア等の国から10数名、行政の人と、技術者が研修に来た。法律を作ろうとしている。ニーズはものすごく高い。日本は車を世界中に売ってきた。一方、回収は全くしていない。大きなビジネスでもあり、途上国にとっては車がゴミのように積まれており、それを政府がお金をだしてスクラップにしているので、政府のコストも大変大きい。これを、政府と一緒にベンチャーを作って解決しようとしている。保険会社が組んでやっていることも。こういう静脈産業は中国や韓国にはできない。そんなに大きな投資も必要ない。雇用はたくさん創出する。JICAも一つの柱にしようかと言ってくれている。

平野さん:  消費財メーカーとしてはどうか?

サライ(竹内さん): 今年の3月からカンボジアでBOPを始めた。現場に入って直接やり取りをしている。サライは手洗いの洗剤メーカー。感染予防を主体に動いている企業。カンボジアでは、5歳までの死亡率が3割程度。それを減らすことを使命に、手を洗う習慣を促進しようと思っている。BOPマーケットというが、企業としてはすべてのピラミッドを対象にしないと成り立たない。トップ層から地方までくまなくお客さんを対象にして、やっている。石けんは、日本の1/10くらいの値段じゃないと買ってくれない。現地生産もやろうと考えようとしている。ただ、ほかの要素もたくさんあり、そこがノウハウ。そこがうまくいけば、2−3年後にトントンになる可能性も見えている。ピラミッド全部を対象にしないと採算はとれない。WHOなどとも協力しながらやっている、必ずビジネスとして成立できるように、同時に感染症の子供を一人でも減らすことを目指してがんばりたい。社員はやりがいをもってやっている(率先してやっている)。きっと現地にいっている人は楽しくやっているんだろうと思う。

経産省(後藤さん):  BOPのことはよくわからない。ただ、新興国に日本の企業が展開していかないといけないと思っている。技術では差別化できないなかで苦慮している。そこをどうすればいいのか。また、イノベーションの発信源が先進国から新興国に移ってきている、という点に関心がある。日本企業が下から出てきた破壊的イノベーターに食われはしないだろうか、という心配がある。そういうイノベーターをどうやって取り込めばいいのか、を考えるとBOPビジネスと重なってくる部分があるので、本日は参加した。日本の場合、エコシステムのプレーヤーは誰なんだろうか、大企業か?ベンチャーか?ベンチャーがこれだけ育ってない国だから、大企業なのか?でも、大企業はトップの強い意志があったり、メインのビジネスと切り離さないと新しいイノベーションは生まれないのではないか。そこの切り離すところで政策的な支援はできるのか?また、儲からない期間を耐えられるようにするような政策的支援もあるのかもしれない。最後に、これを考えているのは私だけかもしれないが、技術研究組合(税的支援がある)という仕組みがあって、そこからビジネスのタネが生まれると株式会社化したりする。そういう苗床のような器は作れないものだろうか。中国に4年いた経験からすると、キーとなる人物をつかまえておくとマーケットに入りやすい。

質問(陸): アメリカでB-Corporationという企業体(ソーシャルインパクトにコミットする代わりに税制優遇が受けられる)が人気になりつつある。日本での議論はどうか?

佐藤さん:  BOPのことを戦略的に考える人が必要ではないかと思った。また、企業のバリリューチェーンに沿ったエコシステム構築が必要ではないかと思った。